【新聞】2025年7月17日付「読売新聞」で『日本農史研究』が紹介されました

2025年7月17日付「読売新聞」で
『日本農史研究 上「生きもの循環」と農法』
『日本農史研究 下「創発する風土」』が紹介されました

上巻  https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54024121

下巻  https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54024122


『日本農史研究』上・下巻


德永光俊 著

上巻

 本書は、作物・微生物・土壌から見た第1・2章、農業者から見た第3・4章、そして広く歴史・社会から見た第5・6章と、三部構成となっている。
 「第1章 根本原理としての生きもの循環」では、「忌地」と呼ばれる連作障害を取り上げ、「忌地」をめぐる農業者、作物、土壌・微生物という三者の生きものたちの関係を探る。「第2章 風土が響存する生きもの循環」は、作物=光合成生産者、農業者と動物=運搬者、微生物=土壌形成者の三者が「生きもの循環」を形成してきたことを説く。
 「第3章 狭義の農法=農術における内的発達法則」は本書の核心にあたる。最初に奈良盆地の水稲反収の推移から、大和農法五〇〇年の小・大・超S字カーブを発見しそれを説明する。次に「第4章 変容する農術の開発・普及・定着過程」では、農術の展開に農業者がどのような役割を果たしたかを、大和農法を事例に考える。
 「第5章 作付け方式からみる風土農法の流れとかたち」では、山形県・日本海側の庄内農法における水稲反収の推移を検討する。さらには連年の時間的な作付順序と一年での空間的な作付割合を組み合わせた「作付方式」の推移を、全国的かつ歴史的に検討する。
 「第6章 農術から広義・大義の風土農法へ」では、奈良盆地の大和農法を念頭に置きながら、狩猟採集から半栽培や畑作、稲作が始まり普及していく時期を「天然農法」、稲作が伝来して作付が始まり、国家によって強制されていく6、7世紀頃よりを「人工農法Ⅰ」、13、14世紀頃より商業的農業が展開していく時期を「人工農法Ⅱ」、1960年代より機械化・化学化・施設化が進む時期を「人工農法Ⅲ」とする。そして21世紀に創造されていく風土農法を「天工農法」と名付ける。
 現在行われている有機農業や自然農法は、反・人工農法Ⅲ、そしてもっと長期的にみれば反・人工農法として位置づけられる。今後は、有機農業や自然農法を組み込んだ、AIやロボットなどのスマート農業も活用する、「生きもの循環」に則った「天工農法」が、農家自身によって開発されやがて多数農民によって受容されていくのではないかとする。どちらかではなく、両者の融合である。
 生きもの循環の基本原理は、日本列島で代々伝えられてきた「おかげさま・おたがいさま」「いただきます・ごちそうさま」という日常生活の和語の世界。本書では、三澤勝衛の風土産業論、作物風土論を軸に、風土農法論を展開し、今では忘れかけられている「おかげさま・おたがいさま(+いただきます・ごちそうさま)」の世界を、21世紀において天工農法により再興することを目指している。

下巻

 本書のキーワードは「すき間」である。「すき間」とはなにか。それは、「農学が提案するあるべき農法」と「風土が求める農法」の「すき間」である。筆者は奈良盆地の農業を「大和農法」と名付けた。それを支える農学的根拠は、「大和農学」とでもいうべきものである。山形県の「庄内農法」では「庄内農学」のように。つまり、各地の「風土農法」には、対応する各地の「風土農学」がある。本書で明らかにするのは、これである。
 第1章は、前史である。明治期からの農法論研究を丹念に見ていく。日本の農学はおもにドイツ農学の影響を受けており、「大きなすき間」があった。第2章では、加用信文を検討する。戦後農業の混迷期に、世界史の発展法則としての段階論的農法論を唱えて、西ヨーロッパをモデルとする一つの発展方向を明示した。しかし、そこには「大きなすき間」があった。加用は苦悩し格闘して、生態的農法論へと理論的に転換した。「風土農学」が受け継ぐべき提案であった。
 第3章は、飯沼二郎である。高度経済成長のもとで、加用のモデルを批判してそこから脱却するアジア・日本農法を、「風土」を導入した地域類型論的農法論による農業革命論の検討を通じて提案した。風土論により「大きなすき間」は小さくなったが、静態的という限界があった。いかに風土論を動態化させるかを提案する。
 第4章は、熊代幸雄による、加用の発展段階論と飯沼の地域類型論を統一しようとする比較農法論を検討する。「生命意識」「生命倫理」は、「風土農学」にとって貴重な視点となろう。
 第5章は、筆者が長年検討してきた守田志郎である。基本法農政の破綻・減反を批判する『農業は農業である』を1971年に刊行して、加用・飯沼・熊代の戦後農法論をちゃぶ台返ししてしまう。「すき間」が自覚化され西欧モデルは否定された。守田の実像を明らかにし、生産と生活が結びついた守田農法論を発展させて、「風土農学」へと繋げていくことをめざしている。
 そして、第6章では、椎名重明や石川三四郎を検討する。第7章では、農法論と現場の農法・農学との「すき間」を埋める努力が、日本列島内ではなく戦前の外地での農学研究でなされていたことを紹介する。
 第8章では、八世紀の古風土記を検討し、それらがその後にどのように受容され展開していったのかを検討する。続いて古風土記を再興する江戸時代の地誌を紹介し、「風土農学」を江戸農書に探ってみる。続いて、小野武夫と黒正巖を紹介する。第9章では、明治期に著わされた牧口常三郎の『人生地理学』をとりあげる。今まで農学研究では全く検討されてこなかったが、風土農学を考えるうえでは欠かせない研究である。
 最後の第10章では、こうした提案の学説史的な意味を、もう一度農学史の検討から確認する。明治期の現場の「経験」と農学士たちの「学理」はどのように農学として融け合ったのか。現場の農業者の「自負」の行方はどうなったのか。江戸農書は「自前の農学」ではなかったのか。そして最後に、「風土農学」を流れる自然観の変遷を追いながら、中国・インド・ヨーロッパからの外来思想とどのように融け合ってきたかを検討する。


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